先日NHKでとりあげていただいたとおり、ご近所はいま現在、スタッフ全員「移住女子」。
移住女子目線で見た「丹波」。これはそんな、ある日の会話の記録である。
- 智子
- 「この辺も一斉に田植えが終わったね」
- 由起
- 「そうそう、この辺は何となく村で同じ時期に田植えするよね。」
- 知秋
- 「昔は全部の田植えが終わったら、村中みんなで休んだって聞きますねぇ。さのぼり ……でしたっけ?」
- 智子
- 「おお、丹波らしい言葉が!」
- 知秋
- 「一応、丹波歴二年なんで、覚えてきました」
- 由起
- 「智子さんと知秋さんは、同じくらいの時期に丹波に来たんやっけ?」
- 知秋
- 「はい。私や智子さんは、丹波移住組の中でも特殊系だと思いますよ」
- 智子
- 「特殊系(笑)。でもそうかも。私は、前の仕事の経験で得たことから、地方での発信の大切さを感じたのが丹波に来たきっかけ。知秋さんも、前は都会で働いてたけど、地方での働き方に興味があったのかな」
- 知秋
- 「私は、それまで全然関係ない仕事してたんですけど、デザイナーになりたいなっていう夢というか、想いはあって。デザインするなら、都会より地方の方がいいなって思って探していて、今の仕事に出会った感じです。でも由起さんも特殊な方ですよね」
- 由起
- 「私は、夫が陶芸家ということもあって、自分たちのしたいことができる場所や、住みたいような古民家を探していて、夫婦で移住したんやけど、珍しいかな。やっぱり、定年退職後の人とかが多いイメージあるかな」
- 智子
- 「なんか、『そうだ、丹波で住もう!』って決意してきた人が多いと思うんだけど、私と知秋さんは、どっちかというと、『いつの間にか』というか(笑)」
知秋「そうでした! 『ご近所』に興味持って、会社見学のつもりで来たら、なんかそのまま面接が始まって……」
智子「私もそう。あれよあれよという感じだったよね(笑)」
新鮮な驚きに満ちる、丹波のくらし
- 由起
- 「私は移住して十年以上になるから慣れたけど、二人は丹波に来て驚いたこととか、けっこうあるんやない?」
- 智子
- 「よく覚えているのは、夜に駐車場で車降りた瞬間に『暗っ!』ってびっくりしたこと(笑)」
- 由起
- 「分かる! 特に『ご近所』のあたりは、本当に街灯が少ないよね」
- 智子
- 「ほんの十メートル先の自分の車にたどり着けない(笑)。夜って、暗いんだってことに改めて気づいた」
- 知秋
- 「外に出るなら、懐中電灯が必須アイテムですよね。でもその分、星はきれいなんです」
- 由起
- 「星きれい! それに、お月さんのありがたさを感じる。昔の和歌で、月について詠まれたものがこうも多いのは、こういうことなんやって実感する。街灯少ないのもあるけど、空気が澄んでいるんやろうね」
- 智子
- 「都会の生活で気づくことは少なくても、こっちで毎日同じ道を通勤していると、季節が変わっていくのを目に見ることができる。こぶしが咲いたり、霧が出たりして、毎日が、まったく同じというわけではないなって」
- 知秋
- 「虫とか、動物が出てきて驚くこともありますけど、意外に不便さを感じたことはないんです。むしろ、こんないい景色を見られることで贅沢な気持ちになるし、ご飯も美味しいし。ずっと住んでいる人からしたら当たり前かもしれないんですけど、外から来た私にはとても新鮮でした」
人とのつながり、人のパワー
- 由起
- 「新鮮さを感じたのは、人のこともそうやわ。こっちの人は本当にパワーがある。畑やってるおばあちゃんたちと一緒に作業すると分かるけど、もうびっくりするくらい体力があるよ」
- 知秋
- 「私たち世代はどこでも車で移動しちゃうから、負けてしまいそうですね。皆さん朝早くから農作業とかしてるし」
- 由起
- 「反対に、村やPTAの会議は夜にある。PTAは特に、お母さんだけじゃなくてお父さんも役員をするから夜になるんやろうけど、これも地域性やんね」
- 智子
- 「地域活動にも参加させてもらっているんですけど、仕事でも、プライベートでも、地域活動でも、どこにいても知っている人に出会うことが新鮮で。都会では、仕事とプライベートできっぱり分かれていたんだけど、こっちに来てからはそういう境目がなく、ゆるくつながっているなーって」
- 知秋
- 「地域の方も、すごく気にかけてくれるんですよね。声をかけてくれたり」
- 由起
- 「同じ苗字の人が村に多いっていうのもあるんだろうけど、下の名前で呼び合ったりするよね。なんだか親しくなれたというか、距離が近くなったようでうれしい」
- 知秋
- 「都会にいるとき、自分の住んでいる場所をどうこうと思ったことはなかったんですけど、ここでは自分の村が好きな人が多いのかなって感じます。村の人たち、みんな知り合いですしね」
- 由起
- 「人との距離感とか、ちょっと都会より『近め』かな。この間、東京と丹波でテレワーク してる子が、『東京では仕事も仕組化されていて、テレワークだったら顔を合わさなくても仕事は完了する、でも丹波では、顔を突き合わせて話すことの大切さを感じる』って言ってて。その、顔を見合わせて話すことって、やっぱり距離としての『近さ』につながってくる気がする」
- 智子
- 「リアルなネットワークが強いから、顔を合わせるって、ホント大切!」
丹波をもっと、楽しむ
- 知秋
- 「仕事とプライベートの境界がゆるくなってきて、人との距離が近いから、いろんな活動に誘ってもらえるし、巻き込んでもらえて。なかなか、自分から輪に入って行けないので、きっかけをもらえたと思っているんです」
- 智子
- 「お休みの日は、仕事がきっかけで関わっているイベントの、お手伝いをしてることが多いな。丹波に来る前に『田舎だと思ってのんびりできないよ、忙しいよ』って言われていたけど、ふたを開けてみたら本当にそう(笑)。かなりの充実具合」
- 由起
- 「私は子育て中やから、休みの日は子ども仕様。近場に体を動かして遊べるスペースや、生き物を観察できるような場所もあって。この間、初めて大路こどもの森の『あそびの学校 』に子どもと参加したんだけど、ほんま楽しかったー。森が手入れされていて、子どもたちが遊べるようになっているんやけど、自然の中で五感を使って楽しむことができたし。あんな森がうちの近くにもあったらいいな」
- 知秋
- 「森はたくさんありますけど、遊べる森はなかなかないですね」
- 由起
- 「特に、豪雨災害で崩れてしまってから、うちの近くは危なくて入れなくなっていて。子どもたちが自由に入って遊べる森がこれから増えていったらいいなって思った」
- 智子
- 「ドラえもんの裏山みたいな?」
- 由起
- 「そんな感じ! ドラえもんが始まった時代は、どこにでもああいう裏山があったのかもね。今はなかなかないけど、だからこそ子どもたちには『ここだからこそ』できる経験をさせてあげたいなって思う」
- 知秋
- 「大人になってからでも、『ここだからこそ』の体験がいっぱいあって。そういえば私昨日、人生において初めて、玄米炊いたんですよ」
- 智子
- 「そういう初めての体験もあるよね。玄米はもらったの?」
- 知秋
- 「はい。それもはじめは仕事関係だったんですけど、知り合って仲良くなった農業組合法人のおじちゃんたちにいただいて。この間母が丹波に来た時に、そのおじちゃんたちのことを『私の丹波の親友です』って紹介したくらい、仲良くしてもらってるんです」
- 智子
- 「人とつながって交流していけるのが面白いよね。今、丹波の地酒を知ることで、もっと美味しく味わえるように、『自分たちで飲む日本酒を、酒米からつくろう!』っていうイベントをしていて。田植えだけじゃなくて草取りをしたり、収穫をしたり、醸造してもらって『飲む』までの長いイベントで。こういう継続的なイベントをすると、人との交流が生まれるよね」
- 由起
- 「『ご近所』っていう会社は、本当に地域にガッツリ入っていく会社やと思う。二人とも、来て二年でかなり地域の人と交流してる。そんなケースなかなかないし、すごいと思うよ」
これからの丹波と、わたしたち
- 知秋
- 「『いつまで丹波におるん?』ってよく聞かれるんです。でも私としては本当にノープランで」
- 由起
- 「私は移住してきたとき、腹をくくって『もうここで定住する』っていう想いやったし、今もそれは変わらない。でも最近移住してきた人たちは、違う考え方を持ってる人もいて」
- 智子
- 「私はむしろ、『次はどんなところに行こうかな』って考えていて。いろんなところを転々として、広報の仕事を続けていきたいと思ってる。広報という仕事の特性もあるんだけど、定住とは少し違って、都会にも、田舎にも拠点があるような生活が理想」
- 由起
- 「智子さんみたいに、カジュアルに移住する人が、最近は増えてきたと思う。他にも古民家を借りてカフェや交流スペースを作ったり、生活する部分だけ改装したりというような話を聞いた時、『そういう発想があったんや!』ってびっくり」
- 智子
- 「由起さんが来たころは、『定年退職後に田舎暮らし』というのが移住の定番だったころから、今みたいにカジュアルな移住が増えていくまでの、過渡期だったのかも。知秋さんは都会と行き来する生活とか、考える?」
- 知秋
- 「今は都会で働くことはまったく考えていなくて。どうしてもルーティンワークのイメージがあって、でも丹波だと毎日同じということがあり得ないんです。前に都会で働いてた時は、寄り道して帰るのが楽しみだったんですけど、こっちに来てからそもそも物欲がわかなくなってきて(笑)」
- 智子
- 「悟りの境地やね!(笑)」
- 知秋
- 「それにまだ、丹波でやりたいことがあるんですよ」
- 由起
- 「どんなこと?」
- 知秋
- 「おじちゃんたちと話していて、私たち世代と、おじちゃんたち六十代七十代の世代の人たちで一緒に何かやってみたいなって思ったんです。この世代が一緒に何かをする事例ってあまりないと思うんですけど、やってみたら面白い化学反応が起きそうな予感がしていて。一つ化学反応式ができたら、それを他の地域にも応用できる、そんな『世代間ギャップが生み出す面白さ』の事例を作りたいなって」
- 智子
- 「今知秋さんは、地域のフリーカフェ を作ってるよね」
- 知秋
- 「はい。地域の人が自然と集って自由に使える場所になったらいいな。フリーカフェは、私からじゃなくて、おじちゃんたちから『もっと地域に若者や女性が入ってきてほしい』っていう発信があって始まったんです。それがうれしかったんですよ」
- 智子
- 「外から来た、この世代の私たちの発想があって、それと、地域の人の思いがうまく融合したら面白いものができそう」
- 由起
- 「ほんまに。ぜひそれは、頑張ってほしいな」
㈱ご近所 移住女子
恒松智子 滋賀県生まれ。大阪のPR会社で様々な業種の広報を担当する中、地方・ローカルからの発信に興味を持ち、二年前に丹波に移住。広報担当。
伊藤由起 大阪生まれの大阪育ち。陶芸家の夫と結婚後、夫婦で十二年前に丹波に移住、古民家に暮らす二児の母。Webデザイナー。
中川知秋 兵庫県宝塚市生まれ。自動車関連技術職を経て、「地方でデザインの仕事をする」夢を叶えに二年前に丹波に移住。デザイナー。
済木麻子 聞き手・ライティング担当。奈良から十一年前に丹波に移住したライター。